真空焼入れとは
読み: しんくうやきいれ
真空焼入れとは、真空炉の中で鋼を加熱し、窒素などの不活性ガスで冷却する焼入れ方法で、大気中の酸素による酸化・脱炭を避けられるため、光輝な表面のまま高い硬度を得られる処理である。金型用の合金工具鋼で使われることが多い。
概要
通常の焼入れを大気中の炉で行うと、加熱中に表面が酸化してスケール(酸化被膜)が生じたり、表面の炭素が失われる脱炭が起きたりする。真空焼入れは、炉の中を真空に近い状態にしてから加熱することで、この酸化と脱炭をほぼ避けることができる処理である。冷却も窒素ガスなどを吹き付けるガス冷却で行うため、処理後の表面は酸化被膜がなく光輝な状態のまま残る。
この特徴から、精密金型のキャビティのように、熱処理後の表面状態や寸法安定性が重要な部品で選ばれることが多い。
冷却方法と適した材質
真空焼入れの冷却は窒素ガスなどによるガス冷却が中心で、水焼入れや油焼入れと比べると冷却速度は穏やかになる。冷却速度が穏やかでも十分に硬化するには、鋼種自体の焼入れ性が高いことが前提になる。
そのため真空焼入れは、クロムなどの合金元素を多く含み焼入れ性の高い合金工具鋼、たとえばSKD11やSKD61のような金型用鋼でよく使われる。逆に焼入れ性の低い炭素鋼では、ガス冷却だけでは十分な硬さが得られない場合がある。
金型加工での位置づけ
SKD11・SKD61を使うダイセットやプレス金型のブロックでは、外形や穴の粗加工を済ませたのち真空焼入れを行い、そのあと研削や放電加工で最終形状に仕上げる工程がよく取られる。真空焼入れは酸化やスケールが出にくいため、仕上げ工程での除去代を見込みやすいという利点がある。
表面硬化処理として高周波焼入れや窒化と組み合わせる設計が検討されることもあり、部位ごとの摩耗要求に応じてどの熱処理を選ぶかが金型設計の判断点になる。
深穴・冷却穴加工との関係
金型の冷却水路やヒータ穴のような深穴は、真空焼入れ前の粗い形状の段階で加工しておくか、真空焼入れ後の硬化した状態で加工するかによって、工数と精度のバランスが変わる。硬化後に穴あけを行うと工具摩耗が増えるため、多くの場合は粗形状の段階で穴あけまで済ませておき、真空焼入れ後は仕上げ研削や放電加工にとどめる進め方が取られる。
真空焼入れは酸化・脱炭を避けられるものの、焼入れに伴う変態応力による寸法変化そのものは残るため、仕上げ代の考え方は通常の焼入れと大きくは変わらない。
よくある誤解
✕ 真空焼入れは大気焼入れより硬化能力が弱い。
○ 不活性ガスで急冷するため、通常の焼入れと同等の硬さを得られる鋼種は多い。酸化・脱炭を避けられる分、表面品位の面で有利になる処理である。
✕ 真空焼入れをすればどんな鋼でも同じように硬化できる。
○ ガス冷却は油焼入れ・水焼入れより冷却速度が穏やかなため、焼入れ性の高い合金工具鋼(SKD11など)向きで、焼入れ性の低い炭素鋼には向かない場合がある。
✕ 真空焼入れ後は仕上げ代を大きく減らせる。
○ 酸化・脱炭は避けられても、焼入れに伴う変態応力による寸法変化自体は残るため、仕上げ代の考え方は通常の焼入れと大きくは変わらない。
よくある質問
真空焼入れは通常の焼入れと何が違いますか?+
真空焼入れはどんな材質に向いていますか?+
真空焼入れ前後、どちらで深穴・冷却穴の加工をすべきですか?+
真空焼入れをすれば仕上げ加工の手間は減りますか?+
関連用語
出典
- JIS G 0201(熱処理用語)
- JIS G 4404(合金工具鋼鋼材)
- BTA・ガンドリル加工.com 技術コラム「ガンドリル加工が可能な素材~工具鋼~」(深江特殊鋼)
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