焼入れとは
読み: やきいれ
焼入れとは、鋼をオーステナイト化温度まで加熱したのち水や油などで急激に冷却し、マルテンサイト組織を生成させて硬さを高める熱処理である。単独では組織が脆いため、焼戻しとセットで行うのが通例である。
概要
焼入れは、耐摩耗性や強度を必要とする機械部品に硬さを与えるための熱処理である。目的自体は単純だが、深穴加工や精密加工の現場では扱いが厄介になる。硬さが上がるということは削りにくくなるということであり、さらに焼入れに伴う組織変化は寸法変化や歪みを引き起こす。そのため、焼入れをいつ行うか(粗加工前か、仕上げ加工前か)は、加工計画そのものに関わる判断になる。
シャフトやスピンドルのように長い穴をあける部品では、焼入れ前の生材(なまざい)で穴あけまで済ませてしまうのか、焼入れ後の硬化材に穴をあけるのかで、工具摩耗・精度・工期のバランスが変わる。この判断が焼入れという用語を理解する実務上の入り口になる。
加熱と冷却の原理
焼入れでは、鋼をAc3変態点(炭素量の少ない鋼の場合はAc1点以上)まで加熱し、組織をオーステナイトにしたのち急冷する。冷却が十分に速いとオーステナイトはマルテンサイトという硬い組織に変わるが、冷却が遅いとパーライトやベイナイトといった硬さの低い組織になってしまい、狙った硬さが出ない。
冷却媒体には水、油、ガスなどがあり、冷却速度は水が最も速く、油、ガスの順に穏やかになる。冷却が速いほど硬化はしやすいが、急激な温度差で割れや歪みも起きやすくなる。そのため、鋼種の焼入れ性(冷却速度がある程度緩やかでも内部まで硬化する性質)と部品の断面寸法を踏まえて、冷却媒体を選ぶ必要がある。断面が厚い部品では、表面は硬化しても中心部まで冷却が届かず、内部が軟らかいまま残ることもある(質量効果)。
焼入れに伴う変形と割れ
マルテンサイトへの変態は体積膨張を伴うため、焼入れ後の部品には内部応力が残り、寸法や形状がわずかに変化する。段付きや穴のある形状では応力が集中しやすく、そのまま放置すると焼入れ割れにつながることがある。このため実務では、焼入れ直後にほぼ必ず焼戻しを行い、内部応力を緩和して割れのリスクを下げてから使用する。
穴あけ加工の観点では、この歪みが穴の曲がりや位置度に影響する。特に長尺の深穴では、焼入れ前後で穴の位置がわずかにずれる可能性があるため、要求精度が厳しい場合はどの工程段階で最終検査を行うかも合わせて決めておく必要がある。
深穴加工との工程順序
深穴加工を伴う部品では、穴あけを焼入れ前(生材)で行うか、焼入れ後(硬化材)で行うかを工程で分けるのが一般的である。生材での穴あけは加工がしやすく工具摩耗も少ないが、後工程の焼入れで生じる歪みの分だけ、最終公差に対する余裕を見ておく必要がある。焼入れ後に穴あけする場合は精度を保ちやすい一方、硬化した材料を削ることになるため工具摩耗が増え、工数もかかる。
どちらの順序を選ぶかは、材質の焼入れ性、要求される穴の精度、部品の形状によって変わる。図面や見積依頼の段階で、焼入れの有無・時期・目標硬度を明記しておくと、加工先が工程順と工具選定を判断しやすくなる。
よくある誤解
✕ 焼入れをすれば熱処理は完了である。
○ 焼入れ直後のマルテンサイト組織は脆く割れやすいため、焼戻しを行わずにそのまま使用することはほとんどない。焼入れと焼戻しは一連の工程として扱われる。
✕ 硬い鋼種を選べば、断面のどこまでも均一に硬くなる。
○ 断面が厚いと内部まで冷却速度が届かず、表面のみ硬化して芯部が軟らかいまま残ることがある(質量効果)。焼入れ性は鋼種によって異なる。
✕ 焼入れをしても寸法は焼入れ前と変わらない。
○ マルテンサイト変態に伴う体積膨張と急冷時の熱応力により、寸法や形状はわずかに変化する。精密な穴の位置度は、焼入れ後に検査し直す必要がある。
よくある質問
焼入れ前と後、どちらのタイミングで穴あけ加工すべきですか?+
焼入れでどのくらい硬くなりますか?+
焼入れ後の材料は必ず脆くなりますか?+
図面に焼入れを指定するとき、何を書けば加工先に伝わりますか?+
関連用語
出典
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