浸炭焼入れとは
読み: しんたんやきいれ
浸炭焼入れとは、炭素含有量の低い鋼の表面だけに炭素を拡散させたのち焼入れし、表面を硬く、内部を靭性の高いままに保つ表面硬化熱処理である。肌焼鋼と呼ばれる低炭素の合金鋼で使われることが多い。
概要
焼入れは鋼の断面全体を硬化させる処理だが、部品によっては表面だけ硬く、内部は粘り強いままにしておきたい場合がある。浸炭焼入れは、まず表面に炭素を拡散させて炭素濃度を高め、そのうえで焼入れをかけることで、この「表面は硬く、芯は靭性がある」という状態を作る処理である。
振動を吸収しながら摩耗にも耐える必要がある軸物や、繰り返し荷重がかかる歯車まわりの部品などで採用される。低炭素の合金鋼(肌焼鋼)がこの処理の対象になることが多い。
処理の流れ
浸炭焼入れでは、まず鋼をおおむね900〜950℃程度の浸炭雰囲気中で加熱し、表面から内部に向けて炭素を拡散させる。これにより表面付近だけ炭素濃度の高い層(浸炭層)ができる。そのあとで焼入れを行うと、炭素濃度の高い表面層はよく硬化し、もともと炭素の少ない内部は硬化しにくいまま残るため、硬い表面と靭性のある芯部という組み合わせが得られる。
この処理は、通常の焼入れのように材料全体を硬くする処理とは狙いが異なり、硬化させる深さ(浸炭深さ)をどこまで取るかが設計上のポイントになる。
適した材質と実務例
肌焼鋼と呼ばれる低炭素の合金鋼が浸炭焼入れの代表的な対象である。深江特殊鋼の公開加工事例では、炭素量が約0.15%と低いSCM415について「熱処理は浸炭熱処理を行うのが一般的で、表面の硬度と耐摩耗性を向上させつつ、中心部の靭性を保つことが可能」とされ、適度なしなりで振動を吸収する用途に向くと紹介されている。炭素量が約0.20%のSCM420についても、研削盤の主軸で浸炭焼入れを行い、表面のみ硬化させ内部の靭性を保つ使い方をした例がある。
これらの鋼種は炭素量が低いため加工しやすく、浸炭によって必要な耐摩耗性を後から作り込める、という組み合わせが実務上の使いどころになる。
加工工程での注意点
浸炭焼入れは表面しか硬化しないとはいえ、いったん処理してしまうと表面層はかなり硬くなるため、その後に穴あけや外径の削り込みを行うと工具摩耗が大きく増える。そのため実務では、外径の荒加工など断面の大部分を削る工程は浸炭焼入れの前に済ませておき、浸炭焼入れ後は仕上げに近い軽い加工にとどめる、という工程分担がよく取られる。
どこまでを浸炭焼入れ前に済ませるかは、要求される最終精度と浸炭層の深さによって変わるため、図面の熱処理指示とあわせて加工先と工程順をすり合わせておくとよい。
よくある誤解
✕ 浸炭焼入れをすれば断面全体が均一に硬くなる。
○ 炭素が拡散した表面層(浸炭層)だけが硬化し、内部は元の低炭素組織のまま靭性を保つ。断面全体を硬くしたい場合は通常の焼入れが選ばれる。
✕ 浸炭焼入れ後でも内部を削る加工に大きな支障はない。
○ 表面しか硬化していないとはいえ、加工対象が硬化層にかかる場合は工具摩耗が大きく増える。断面の大部分を削る荒加工は浸炭焼入れ前に済ませるのが実務上の基本になる。
✕ どの鋼種でも浸炭焼入れで同じ効果が得られる。
○ 炭素含有量が低い肌焼鋼(SCM415、SCM420など)で使われる処理であり、もともと炭素量が高い鋼種にはあまり用いられない。
よくある質問
浸炭焼入れはどんな材質に向いていますか?+
浸炭焼入れ後に穴あけ加工はできますか?+
浸炭焼入れと通常の焼入れは何が違いますか?+
浸炭焼入れ前後、どちらで外径の荒加工をすべきですか?+
関連用語
出典
- JIS G 0201(熱処理用語)
- JIS G 4053(機械構造用合金鋼鋼材)
- BTA・ガンドリル加工.com 技術コラム「材質によるガンドリル加工の違い」(深江特殊鋼)
- BTA・ガンドリル加工.com 技術コラム「長尺シャフト加工におけるよくあるトラブルと対策」(深江特殊鋼)
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