窒化処理とは
読み: ちっかしょり
窒化処理とは、鋼の表面に窒素を拡散させて硬い窒化層を作る表面硬化処理で、焼入れのような急冷を伴わないため加工後の寸法変化が小さいのが特徴である。金型やプレス部品の耐摩耗性向上に使われる。
概要
窒化処理は、鋼の表面付近に窒素を拡散させ、硬い窒化化合物の層を作ることで耐摩耗性を高める表面硬化処理である。焼入れや浸炭焼入れのように急冷して組織を変態させる処理ではなく、比較的低い温度で窒素を拡散させるだけなので、処理に伴う熱歪みが小さいという特徴がある。
この特徴から、寸法精度を保ったまま摩耗しやすい面だけを硬くしたい部品、特に金型やプレス部品の摩耗対策として広く使われている。
焼入れ・浸炭焼入れとの違い
焼入れは急冷によって組織全体をマルテンサイト化し、浸炭焼入れは表面に炭素を拡散させたうえで焼入れする。どちらも急冷の工程を含むため、熱応力による寸法変化が避けられない。これに対し窒化処理は急冷を伴わないため、仕上げ加工後の部品に施しても寸法変化を比較的抑えやすい。
ただし窒化処理で得られる硬化層は、浸炭層と比べて薄いことが多く、面圧や衝撃が大きい部位では層が早期に摩滅する場合がある。用途に応じて、浸炭焼入れや硬質クロムめっきなど他の表面処理と使い分けられている。
金型部品での実務
SKD11やSKD61のようなプレス金型・ダイセットの摺動部・摩耗部では、高周波焼入れや窒化を前提にした穴あけ設計が必要になる場合がある。金型の補修現場でも、窒化処理や硬質クロムめっきは摩耗寿命を延ばす代表的な表面処理として扱われている。
深江特殊鋼の公開技術情報では、金型補修部へのガス窒化(510℃×40時間)で表層に硬さHV1100の化合物層を約5μm形成する処理条件が示されており、摩耗の激しい成形用途では窒化とコーティングの併用で摩耗寿命を数倍に延ばした例も公開されている。摩耗が課題になっている既存金型の補修・改造でも、窒化処理を追加する対応が検討されることがある。
加工工程での注意点
窒化層は比較的薄く硬いため、窒化処理後に穴あけや研削で表面を大きく削り込むと、せっかく作った硬化層自体を失ってしまう。そのため窒化処理は、最終仕上げに近いタイミングで行うのが一般的である。
深穴加工との組み合わせでは、油圧シリンダチューブのようにBTA加工後にガス軟窒化と微細ホーニングを組み合わせ、化合物層を残したまま拡散層だけを除去することで、内面粗さと硬さを両立させる工程も報告されている。窒化処理を含む案件では、どの工程順で内面仕上げを行うかを事前にすり合わせておく必要がある。
窒化処理の適用例(深江特殊鋼 公開技術情報)
| 対象 | 処理条件 | 結果 |
|---|---|---|
| SKD61系金型の補修部 | ガス窒化 510℃×40時間 | 表層に硬さHV1100の化合物層を約5μm形成 |
| SCM440・SACM645系の調質鋼 | ガス軟窒化 580℃×3時間 | 表面HV600〜700の硬化層10〜20μmを付与し、芯部の靭性は維持 |
※ 処理条件と到達硬さは深江特殊鋼の公開技術コラム記載値。対象材質・形状により変わるため、適用可否は個別確認が必要。
よくある誤解
✕ 窒化処理は焼入れの一種で、寸法が大きく変わる。
○ 急冷を伴わないため熱歪みが小さく、仕上げ加工後の部品に施しても寸法変化を比較的抑えやすい処理である。
✕ 窒化処理をすればどんな摩耗にも対応できる。
○ 窒化層は比較的薄いため、面圧や衝撃が大きい部位では層が早期に摩滅する場合がある。硬質クロムめっきなど別の表面処理と使い分けられている。
✕ 窒化処理はいつ行っても同じ結果になる。
○ 窒化処理後に穴あけや研削で表面を削り込むと硬化層自体を失うため、最終仕上げに近いタイミングで行うのが一般的である。
よくある質問
窒化処理をすると寸法はどのくらい変わりますか?+
窒化処理と浸炭焼入れはどちらを選べばいいですか?+
窒化処理後に穴あけ加工はできますか?+
窒化処理はどんな部品によく使われますか?+
関連用語
出典
- JIS G 0201(熱処理用語)
- 深江特殊鋼 公開情報: SKD11コールドプレス金型ベースへの窒化処理事例(表面硬さHV1100、金型寿命約3倍)
- 深江特殊鋼 公開情報: SCM440油圧シリンダチューブのBTA加工+ガス軟窒化+微細ホーニング事例(内面粗さRa0.35、表面硬さHV750)
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