焼戻しとは
読み: やきもどし
焼戻しとは、焼入れ後の鋼をAc1変態点以下の温度まで再加熱し、その後冷却することで、硬さを保ちながら靭性を回復させる熱処理である。焼入れ単独では脆すぎて実用に耐えないため、焼入れ直後に行う一連の工程として扱われる。
概要
焼入れ直後の鋼はマルテンサイト組織になっており、硬さは高いが同時に脆く、内部応力も残っている。焼戻しは、この状態の鋼を変態点以下の温度で再加熱し、組織を安定させることで、脆さを抑えて靭性を回復させ、内部応力を緩和する処理である。
焼入れと焼戻しは別々の工程だが、実務では「焼入れ焼戻し」としてほぼセットで語られる。焼戻しをどのくらいの温度で行うかによって、最終的な硬さと靭性のバランスが変わるため、部品の使われ方に応じて温度を選ぶ必要がある。
温度域による使い分け
焼戻し温度はおおむね150〜650℃の範囲で選ばれ、低い温度ほど硬さが残り、高い温度ほど靭性側に寄る。低温焼戻し(おおむね150〜200℃程度)は硬さの低下を抑えたい工具や軸受用の鋼(SUJ2など)で選ばれることが多く、高温焼戻し(おおむね500〜650℃程度)は強度と靭性の両立を狙う構造用鋼の部品で選ばれることが多い。
この高温焼戻しを前提に焼入れ・焼戻しをひとまとめにした熱処理は「調質」と呼ばれ、SCM440のような構造用合金鋼の機械部品でよく使われる。焼戻しという用語自体は温度域を問わず使われるが、調質は高温焼戻しを前提とした呼び方である点が異なる。
焼戻し不足が加工に与える影響
焼戻しが不十分な状態、あるいは焼戻し温度が低すぎる状態のまま部品を仕上げ加工に回すと、加工中の切削応力や振動で焼入れ由来の内部応力が解放され、想定外の歪みや割れにつながることがある。特に深穴加工のように長時間・長距離を削る工程では、内部応力の影響が穴の真直度や内面品位に表れやすい。
このため、焼入れ後は必ず焼戻しを済ませてから最終加工に入るのが基本の工程順になる。焼戻し温度や保持時間が図面や仕様書に明記されていない場合は、加工先に確認しておくと後工程での手戻りを防げる。
よくある誤解
✕ 焼戻しは焼入れのオプションであり、省いても実用上問題ない。
○ 焼入れ直後の組織はほぼ必ず脆いため、焼戻しをしない状態で製品として使うことは基本的にない。焼入れと焼戻しは一連の工程として扱われる。
✕ 焼戻し温度は高くかければかけるほど良い。
○ 焼戻し温度を上げるほど硬さは下がっていくため、要求硬度に応じて温度を選ぶ必要がある。硬さを残したい用途と靭性を重視したい用途では、選ぶ温度が異なる。
✕ 焼戻しをすれば、焼入れ時に生じた寸法の歪みは元に戻る。
○ 焼戻しは内部応力を緩和して割れを防ぐための処理であり、焼入れで生じた変態膨張や寸法変化そのものを打ち消すわけではない。歪みが残る前提で仕上げ代を見込む必要がある。
よくある質問
焼戻しをしないとどうなりますか?+
焼戻し温度はどうやって決めますか?+
焼戻し後も寸法は変わりますか?+
焼戻しと調質はどう違いますか?+
関連用語
出典
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