人工衛星機器の部品加工はどこまで外注できるか、発注前に何を確認すべきか?
人工衛星機器の部品加工は、まず案件に適用される設計標準を確認します。JAXAが開発する衛星ではJERG-2-320が材料の許容値や特殊工程の管理を定めますが、適用の範囲はプロジェクトごとのテーラリング(適用項目の取捨選択)で決まります[1]。図面の公差に加えて、材料証明と清浄度、アウトガスの要求がどの文書から来ているかを整理すると、発注条件が固まります。
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適用される設計標準がどれか分からない段階でも、機器名と分かっている条件だけで送ってください。図面や具体的なアイデアがなくてもOK!適用範囲の確認から一緒に進めます。
まず確認すること
人工衛星機器の部品加工の外注で最初に決まるのは、加工方法ではなく、その部品にどの設計標準がどこまで適用されるかです。同じアルミのブラケットでも、JERG-2-320準拠の案件なら、材料の許容値はMMPDSのA値が原則になり、材料試験のテストピースは実機と同一の加工条件で作ることまで求められます[1][3]。深江特殊鋼は、この適用範囲の確認から入り、図面の公差と検査の指定、数量をうかがったうえで対応可否と見積を回答します[15]。
納期が遅れやすいポイント
- 加工先から「宇宙用にも対応できます」という回答をもらっても、材料証明がロット単位まで出るのか、熱処理や表面処理の記録がどこまで残るのかが分からない。[13]
- 図面に清浄度レベルやTML、CVCMの指定があるが、どの文書のどの版から来た数値か分からず、洗浄と検査の条件を加工先へ正しく伝えられない。[4][5]
- JERG-2-320を要求の一覧だと思って開くと、公差や面粗度の一律の数値表が無く、プロジェクトのテーラリングを確認しないと発注条件が決まらないことに気づく。[1]
- 人工衛星用の部品、コンポーネントは海外依存が続き、事業性を理由にしたメーカーの撤退で、既存の調達ルートが細っている。[9][10]
- 長年の加工先が廃業し、図面と過去の検査成績書だけが手元に残り、同じ条件で再現できる発注先を探すところから始めなければならない。[11]
Q. なぜ人工衛星の部品加工は、図面の外にあるプロジェクト標準まで確認が要るのか?
A. 人工衛星の部品には全案件に一律で効く法定の技術基準が無く、要求はプロジェクトごとに適用される設計標準とそのテーラリングで決まるためです。JAXAが開発する衛星ではJERG-2-320がその中心になります[1]。 国内の法定制度から確認します。宇宙活動法(平成28年法律第76号)は、人工衛星等の打上げに係る許可、打上げ用ロケットの型式認定、人工衛星の管理に係る許可などを定める許認可制度で、2018年11月15日に施行されました[8]。対象は打上げと軌道上の管理という運用段階です。部品の公差や材料選定を直接定める条文は、この法律には置かれていません[8]。では図面の要求はどこから来るのか。ここで効いてくるのがJERG-2-320のような設計標準です。 JERG-2-320は、JAXAが開発する衛星のシステム、構体、サブシステムおよび搭載機器の設計、解析、製作、検査、試験に適用され、材料選定、製造プロセス、清浄度、品質保証の枠組みを定めています[1]。ただしこの標準は、個別プロジェクトの仕様書で適用項目を取捨選択するテーラリングが前提で、公差や面粗度の一律の数値表は持ちません[1]。要求の実数値は案件ごとの仕様書と図面に現れるため、発注前の確認は「JERG準拠か」の一言では終わらず、どの項目がどの範囲で適用されているかの確認になります。 材料の扱いには、この標準の性格がよく表れています。金属材料の強度は、原則としてMMPDSとAerospace Structural Metal Handbookに記載のA値(破壊が構造全体に及ぶ一次構造向けの許容値)を用い、冗長性のある二次構造や搭載機器にはB値を使い分けます[1][3]。MMPDSは60年以上使われてきた航空宇宙用金属材料の許容値データ集で、最新版はMMPDS-2026です[3]。公的データに無い材料を使う場合は、ASTMなど認定された手法で材料特性試験を行い、統計的にA値、B値相当の許容値を求めることになりますが、このときテストピースの材料加工には実機と同一の加工条件を適用することが求められます[1]。つまり試験片を削る工具や切削条件そのものが、実機の加工条件とセットで管理の対象になります。ガラスやセラミックのような脆性材料には別の枠があり、信頼度要求の配分が未定義の場合は損傷確率を10のマイナス6乗以下に抑える選定が求められます[1]。 工程側の要求も同じ構造です。熱処理、溶接、接着、表面処理、非破壊検査といった特殊工程は、予め認定された製造方法によることとされ、管理手順書の作成と、設備の検定、作業者の検定が要求されます[1]。検査と試験の記録は、原則としてミッション終了まで維持することが求められます[1]。発注側が加工先に確認すべきは「宇宙用に対応できるか」という抽象的な可否ではなく、どの工程が特殊工程指定で、材料証明と検査の記録がロット単位でどこまで残るかという具体です[13]。品質マネジメント側の要求としてJIS Q 9100が指定される場合もあります。JIS Q 9100は米国のAS9100、欧州のEN9100と技術的に同等で、ISO 9001に航空宇宙、防衛特有の要求を追加した規格です[7]。認証の要求があるかどうかと、その水準は、見積の最初に確認する項目になります[7]。
Q. 清浄度とアウトガスの指定は、機械加工の発注にどう効いてくるのか?
A. JERG-2-320は製造から輸送までの全フェーズに清浄度要求を規定することを求めますが、数値そのものは個別プロジェクトの指定によります[1]。図面や仕様書にあるレベル指定の数値と試験方法を写し取ることが、発注時の確認の中心になります[4][5]。 清浄度レベルという言葉の中身から確認します。NASAジョンソン宇宙センターのプロセス仕様PRC-5001(初版1996年5月、Rev G改訂2020年6月)では、たとえばLevel Aは不揮発性残渣(NVR)の制限のみを指し、その値は1mg/0.1m²です[5]。Level 200は粒子の大きさと個数の制限のみ、Level 200Aは粒子とNVRの両方の制限を指し、Level 200Bより厳しいレベルとされます[5]。厳しいレベルで洗浄した部品を、より緩いレベルのシステムに使うことは認められています[5]。ただしPRC-5001はNASAの一センター固有のプロセス仕様であり、国内の衛星案件へそのまま適用される規格ではありません[5]。案件の図面が参照している文書がどれかを確認する必要があります。 この分類体系の系譜も知っておくと、図面の読み方が変わります。粒子とNVRでレベルを刻む方式は1960年代に米軍が起草したMIL-STD-1246に始まり、2002年にIEST-STD-CC1246へ引き継がれました。精密洗浄事業者の解説では、最新版はE版(2013年発行)とされています[6]。粒子清浄度はサイズ区分(5〜15μmなど)ごとの許容個数、NVRはR1=1mgのような記号で指定されます[6]。図面に「Level 300A」のような指定だけが書かれている場合、この体系のどの文書のどの版を指すのかまで確認しないと、洗浄と検査の条件が確定しません[6]。 アウトガスは材料側の要求です。NASAゴダード宇宙飛行センターのアウトガスデータベースは、1967年から2017年までの試験データを18カテゴリーで収録し、掲載の判定基準はTML(全質量損失)1.0%以下、CVCM(収集凝縮性揮発分)0.10%以下、試験方法はASTM E595です[4]。JAXA側の機構設計標準JERG-2-330も、潤滑剤のアウトガス発生率をASTM E595で測定し、許容限度はJMR-010(コンタミネーション管理標準)を参考とすると定めており、試験方法は日米で共通です[2]。ただしTML1.0%、CVCM0.10%という数値はNASAのスクリーニング基準であり、個別案件の判定値は仕様書の指定によります[4]。加工発注の場面でこの要求が現れるのは、クーラント(切削油)や洗浄剤の残渣管理、表面処理の選定です。ベークアウトや電解研磨といった対策の選び方は、真空部品向けに整理した別ページがあります[14]。 可動部を持つ機器では、加工公差が機構の成立に直結します。JERG-2-330は、精度管理が要る機構に対して加工、組立の公差やミスアラインメント、熱変形などの誤差バジェットの検討を求め、駆動部には静的トルクマージン1以上、動的トルクマージン0.25以上を要求します[2]。しゅう動面や転がり面の摩擦は加工面の状態で変わるため、抵抗トルクの見積もりに効き、このマージン計算の分母を左右します[2]。機構部品の図面で公差と面粗度が細かく指定されているのは、この計算の裏付けとして管理されているためです[2]。
Q. 深江特殊鋼に人工衛星機器の部品加工を相談すると、何がどこまで進むのか?
A. 適用される設計標準とテーラリングの範囲、材料証明の範囲、清浄度とアウトガスの指定の3点を、図面の公差と検査の指定と一緒に確認し、材料と精度、ロット、納期の条件がそろえば、対応可否と見積を回答します[15]。 衛星構体の加工では公開事例があります。A6061-T651の衛星構造フレーム(300×200×50mm)を5軸のワンチャックで加工し、段取り替えを3回から1回に集約して薄肉部の変形を抑え、公差目標±0.02mmに対して全寸法±0.015mm、面粗度Ra0.8を達成、導電性黒色アルマイト処理まで含めてロット3個を15営業日で納めた事例です[16]。搭載機器の筐体と同種の面精度管理では、コバール気密封止パッケージ(25×15×8mm)の封止面を平面度0.003mm、面粗度Ra0.2で仕上げ、月産200個で管理した公開事例があります[17]。低熱膨張材や難削材を含む案件も、素材手配や表面処理、非破壊検査まで、国内認定パートナー150社超のネットワークで材料と精度、ロット、納期の4軸に合わせて一括で受けます[15]。 調達側の事情にも触れておきます。宇宙産業ビジョン2030(2017年)は、人工衛星用部品、コンポーネントの4割を海外に依存し、基幹となる能動電子部品では8割に達すると指摘したうえで、事業性を見込めないメーカーの撤退が相次ぎ、供給基盤が揺らいでいると述べています[9]。この課題認識は過去のものではありません。2026年時点でも、宇宙戦略基金が衛星コンステレーション需要への対応を掲げ、部品の品質、コスト、納期の課題と国内試験設備の不足を理由に、国内サプライチェーン構築への支援を続けています[10]。足元では、全国の中小企業の後継者不在率が52.1%(2024年、全産業の統計)で、後継者難による倒産は2024年1月から10月だけで455件あります[11]。要求の厳しい少量多品種の部品ほど代替先は見つけにくく、図面と材料証明、検査成績書が残っているうちに二次的な発注先を確保しておく価値は大きくなります[11]。 初回相談で伝える条件は、一般の精密部品と大きくは変わりません。材料、外形寸法、穴径と深さ、数量、希望納期、図面の改訂番号です[12]。そこに衛星案件特有の3点、すなわち適用標準の範囲、材料証明の範囲、清浄度とアウトガスの指定を添えてください[1]。材料込みか材料支給か、粗加工までか仕上げまでかを分けて伝えると、見積の回答が早くなります[12]。
図面で見ておきたい条件
- 相談の最初に、案件に適用される設計標準(JERG-2-320準拠か、プロジェクト独自仕様か)と、そのうち図面に効いている要求(材料の許容値、特殊工程、清浄度)をお知らせください。同じ形状の部品でも、適用標準の範囲で材料証明と検査の前提が変わります[1]。
- 清浄度やアウトガスの指定がある部品は、レベルの数値(NVRのmg値、粒子の許容個数)と試験方法(ASTM E595など)に加えて、根拠になっている文書名と版が分かると、洗浄と検査の条件確認が早く進みます[4][5]。
相談前に知っておきたいこと
- 対応可否と費用は、図面と適用される設計標準の範囲を確認してから回答します。
- 打上げ環境や軌道上環境に対する設計の成立性(構造解析や熱解析)の判断は、衛星メーカーや機器メーカー側の設計行為です。加工側が担うのは、図面に指定された寸法、面粗度、検査記録の実現です[1]。
- 清浄度レベルやアウトガス判定値の設定そのものは、プロジェクトの仕様側で決まる事項です。指定されたレベルに対する洗浄、梱包、検査の対応範囲は、レベルの数値と根拠文書が決まれば回答します[5]。
業界での実機事例(参考)

A6061衛星構造部品の5軸精密加工

コバール気密封止パッケージの精密加工
よくある質問
図面が固まっていない段階でも相談できますか?+
JAXA案件ではありませんが、JERG-2-320準拠を求められました。対応できますか?+
材料証明(ミルシート)はどこまで付けられますか?+
AS9100やJIS Q 9100の認証は必要ですか?+
清浄度レベルの指定がある部品の洗浄と梱包まで頼めますか?+
アウトガス試験(ASTM E595)のデータ提出を求められています。どう進めればよいですか?+
チタンやコバールのような材料でも単品から加工できますか?+
衛星構体のような薄肉のアルミ部品の加工はできますか?+
見積のとき何を伝えると初回の回答が早くなりますか?+
検査成績書や測定データは付けてもらえますか?+
あわせて読みたい情報
参考事例・文献
外部資料
- [1] JERG-2-320C 構造設計標準(JAXA安全・信頼性推進部、2026年3月30日C改訂)
- [2] JERG-2-330B 機構設計標準(JAXA安全・信頼性推進部、2021年5月15日B改定)
- [3] MMPDS(Metallic Materials Properties Development and Standardization)Handbook 概要
- [4] NASA GSFC Outgassing Database User Guide
- [5] PRC-5001 Rev G: Process Specification for Cleaning of Hardware(NASA JSC、2020年6月改訂)
- [6] Precision Cleaning Standards解説(Astro Pak、IEST-STD-CC1246/MIL-STD-1246の概要)
- [7] JIS Q 9100/SJAC 9120(航空宇宙)品質マネジメントシステム認証の概要(日本品質保証機構)
- [8] 宇宙活動法(平成28年法律第76号)関連申請案内(内閣府宇宙政策委員会)
- [9] 宇宙産業ビジョン2030(宇宙政策委員会宇宙産業振興小委員会、2017年5月)
- [10] 宇宙戦略基金 衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネント開発(テーマ21)
- [11] 帝国データバンク: 全国「後継者不在率」動向調査(2024年)
内部事例
- [16] 加工事例: A6061-T651衛星構造フレームの5軸ワンチャック加工
- [17] 加工事例: コバール気密封止パッケージの精密加工
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