ハイドロキシアパタイトコーティングを前提にインプラント基材を加工するとき、金属側で何を決めておくべきか?
コーティング面の粗さは数値規格で縛られていません。まず基材の材料規格、下地処理をどちらが持つか、マスキング範囲、寸法公差をどの工程時点で保証するかを先に確定させます。[1][2]
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まず確認すること
図面の表面処理欄にハイドロキシアパタイトコーティングと書かれていると、金属側にも面粗度の数値が降りてくると考えたくなります。歯科用インプラント承認基準を読むと、そうはなっていません。表3-1と表3-2に並ぶ表面粗さ規格値は、サンドブラスト、酸処理、粗面化のための陽極酸化処理、ワイヤカット放電加工に適用され、ハイドロキシアパタイトコーティング処理は適用対象から外れています。[1] コーティング面については走査電子顕微鏡写真等で既承認品と同等であることを示す形になっており、数値の合否ラインは置かれていません。[1] そのぶん金属側で先に決める条件は、基材の材料規格、下地処理の担当範囲、マスキング範囲、寸法公差の保証時点へ移ります。[1][2]
納期が遅れやすいポイント
- 図面の表面処理欄にハイドロキシアパタイトコーティングとだけ書かれていて、金属をどの状態で渡せばよいか読み取れない
- コーティング後に求められる試験項目を先に知らないまま、金属側の公差だけを詰めてしまう[1]
- 基材のチタン材質規格をどこまで指定すべきか判断がつかない[1]
- コーティングを乗せる面と乗せない面の切り分けを、加工先とコーティング先のどちらへ伝えるべきか決まっていない[2]
- 国内の薬事上どの規格番号を引けばよいか、調べる糸口が見つからない[1]
Q. コーティングを前提にすると、金属側の面粗度は数値で指定されるのか?
A. 指定されません。承認基準が数値表で示す表面粗さ規格値(μm単位のRa、Rz、Sa、Sz)は、サンドブラスト、酸処理、サンドブラストと酸処理の組合せ、粗面化のための陽極酸化処理、ワイヤカット放電加工にだけ適用され、ハイドロキシアパタイトコーティング処理は対象外と明記されています。金属側の面粗度は、この表からは決まりません。[1] この承認基準は令和4年11月2日の改正で、適用範囲にハイドロキシアパタイトによるコーティング処理を追加しました。[1] 追加された5.3項は、コーティング処理をされたフィクスチャについて、処理膜の厚さ、はく離強さ、元素分析、Ca/P比、同定と結晶化度の5項目で既承認品との同等性を示すこととし、試験方法としてISO 13779-4、ISO 13779-2、ISO 13779-3を引いています。いずれも成膜後の検査項目であり、金属材料そのものの規格とは別立てです。[1] 同じ5.3項は、表面性状については走査電子顕微鏡写真等で既承認品と同等であることを示す、とだけ述べています。[1] 数値の合否ラインが置かれていないのは、この基準が絶対的な閾値ではなく既承認品との同等性を示す枠組みとして作られているためで、評価項目も5項目に限定せず、成膜方法に応じて追加するよう求めています。検査項目の並びが固定でないぶん、金属側で面粗度の数値を先取りして決めることもできません。[1] したがって金属側で決められるのは、面粗度の数値ではなくその手前の条件になります。基材の材料規格、下地処理をどこまで加工側で持つか、コーティングを乗せない面のマスキング範囲、そして寸法公差をどの工程時点で保証するかです。[1][2]
Q. コーティング前に、金属側で決めておく条件は何か?
A. 基材の材料規格、下地処理の担当範囲、清浄度、マスキング範囲の4つです。[1][2] 基材の材料規格から決めます。承認基準の引用規格リストには、ASTM F67 Grade1から4、JIS H 4650、JIS H 4670、ASTM F136のTi-6Al-4V ELI、ISO 5832-3、ISO 5832-11、ASTM B348が並びます。[1] 純チタンはJIS H 4600で1種から4種に分かれ、酸素と鉄の含有量が増えるほど番号が大きくなり、強度は上がるかわりに加工性は下がります。[7] 強度より耐食性と生体適合性を優先する用途で純チタンが選ばれるのはこのためで、弊社が見積りに入るときも、Ti-6Al-4Vか純チタンか、ELIグレードが要るかまでの指定をお願いしています。[6][7] 下地処理をどちらが持つかが次に来ます。コーティング前処理を手がける業者の資料では、ブラストはチタン基材にハイドロキシアパタイトまたはチタンのコーティングを乗せる直前の下地作りとして位置づけられ、ブラスト後にASTM F86のパシベーションを行い、Ra1.0から3.2μmの粗さで残留物がほぼ無い状態にすると説明されています。[2] 加工まま面をそのまま成膜へ回す前提ではないため、加工側が出すべきなのは最終粗さではなく、この下地工程に入れる寸法と面の状態です。[2] 同じ資料は、マスキングによって部位を選んで処理できるとしています。[2] コーティング範囲と加工まま面の境界が図面上で決まっていないと、下地処理の前後どちらの寸法で公差を保証するかも決まりません。[2] 清浄度は工程順で担保します。公開加工事例では、Ti-6Al-4V製の骨固定プレート100×30×8mmにφ2.5×90mmのガンドリル通路を加工したあと、超音波洗浄を挟んでから表面処理へ送り、異物洗浄度試験は全数合格、通路内面は面粗度Ra0.3でした。[4] 深穴や細穴が入る形状では、切粉と加工油が抜けきらないまま表面処理へ回ると残留物が密着に不利に働くため、洗浄工程を工程表のどこに置くかを先に決めます。[2][4]
Q. 深江特殊鋼にはどこまで頼めるのか?
A. 金属基材の加工と、コーティングに入る前までの工程をお受けします。外形加工、内穴加工、洗浄、公差の寸法検査までが自社の範囲です。ハイドロキシアパタイトの成膜は自社設備の範囲外のため、コーティング工程を含めて一括で対応します。[3][6] 金属側の実例はあります。公開加工事例では、CP-Ti Grade4の歯科インプラント体を、φ5×L16mmの外形にφ1.6×14mmの内ねじ下穴という条件で加工し、下穴径の公差±0.01mmを確認しています。工程順は線材の受入、スイス式旋盤の外形加工、ガンドリルによる内ねじ下穴、タップ加工、SLA表面処理、無菌パッケージングで、SLA面の粗さはSa2.5μmでした。[3] SLAは骨結合を狙う表面処理という点でハイドロキシアパタイトコーティングと同じ機能分類に入りますが、基材そのものを粗面化する処理であり、リン酸カルシウム系のセラミック層を乗せる成膜とは別の処理です。承認基準でも両者は別の項目として扱われています。[1][3] 表面処理前の金属面は、公開加工事例で面粗度Ra0.1まで作り込んでいます。Ti-6Al-4Vの人工股関節ステムφ15×L180mmで、5軸加工とバフ研磨を経て形状精度±0.05mmと合わせて確認した数値です。[5] 切削条件としては、Ti-6Al-4Vの5軸加工で切削速度65m/min、送り0.05mm/tooth、高圧クーラント7.0MPaという数値を社内に持っています。[6] チタン系は熱伝導率が低く切削熱が刃先側にこもるため、鉄鋼材の条件をそのまま当てると工具摩耗が早まります。[7] 品質記録の要求は見積り前に分けて確認します。ISO 13485の要求範囲と、AS9102形式の初回品質検査記録が要るかどうかで、検査工数と納期が変わるためです。[6] なお航空宇宙品質の認証を保有しているのはグループ会社の由紀精密であり、深江特殊鋼自身ではありません。案件によって工程分担が変わるので、どの法人がどの工程を担当するかも合わせてお伝えします。[6]
図面で見ておきたい条件
- ハイドロキシアパタイトの成膜は自社設備の範囲外です。金属基材の加工、洗浄、寸法検査までを自社で受け、材料手配とコーティング工程を含めて一括で対応します。[3][6]
- 処理膜の厚さ、はく離強さ、元素分析、Ca/P比、結晶化度の合否は、成膜条件で決まるため金属加工の範囲だけでは確定しません。対応可否と費用は、基材の材料規格と下地処理の分担が決まった段階で回答します。[1]
- 承認基準が表3-1と表3-2に示す表面粗さ規格値(Ra、Rz、Sa、Szのμm値)は、サンドブラスト、酸処理、粗面化のための陽極酸化処理、ワイヤカット放電加工に適用されるもので、ハイドロキシアパタイトコーティング面の面粗度規格としては転用できません。[1]
- 公開加工事例で表面処理として記録されているのは陽極酸化とSLA(ブラストと酸エッチング)です。[3][5] 材料規格と要求する公差が決まった段階で、対応可否と費用を回答します。
相談前に知っておきたいこと
- ここで参照している承認基準は日本の歯科用インプラント向けであり、股関節や膝関節など整形外科用インプラントのハイドロキシアパタイトコーティングには別の基準が適用されます。対象部位が決まった段階で、引くべき規格から確認します。[1]
- ISO 13779-2、ISO 13779-3、ISO 13779-4が定める具体的な数値(はく離強さの下限やCa/P比の許容範囲)は、承認基準の本文には転記されていません。膜厚や密着の合否ラインは、成膜先の工程条件と合わせて確認する事項になります。[1]
関連するものづくりトピックス
業界での実機事例(参考)

CP-Ti歯科インプラント用深穴ガンドリル加工

Ti-6Al-4V整形外科用インプラントのガンドリル通路加工

Ti-6Al-4V医療用インプラントの5軸加工
よくある質問
図面がまだ固まっていなくても相談できますか?+
ハイドロキシアパタイトコーティング自体も一緒に手配してもらえますか?+
基材は純チタンとTi-6Al-4Vのどちらを指定すべきですか?+
コーティング前の下地ブラストは、加工側とコーティング先のどちらで持つべきですか?+
承認基準に載っている表面粗さの数値を、そのまま図面に書いてもよいですか?+
試作1個からでも受けてもらえますか?+
ISO 13485の認証状況はどうなっていますか?+
整形外科用インプラントでも、同じ考え方でよいですか?+
現在の加工先で寸法が安定しない案件も相談できますか?+
見積り依頼のとき、最低限どの条件を伝えればよいですか?+
あわせて読みたい情報
参考事例・文献
内部事例
- [3] 金属加工ジャパン: CP-Ti歯科インプラント用深穴ガンドリル加工
- [4] 金属加工ジャパン: Ti-6Al-4V整形外科用インプラントのガンドリル通路加工
- [5] 金属加工ジャパン: Ti-6Al-4V医療用インプラントの5軸加工
設備・会社情報
- [6] 金属加工ジャパン: チタン精密部品の加工外注ガイド
- [7] 金属加工ジャパン: 純チタン(用語解説)
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