TIG溶接を含む金属加工を外部に出すとき、弊社が先に確認する条件は何か?
まず、母材の材質と板厚、TIG溶接する継手の形状と姿勢、溶接後に必要な機械加工と検査の3点を確認します。この3点が決まってから、対応可否と金額を見積としてまとめます。
Meta-Navi bridge
Meta-Naviの肉盛溶接と補修の記事から相談へ進む
材質と板厚、溶接する箇所だけで始められます。図面や具体的なアイデアがなくてもOKです。Meta-Naviの肉盛溶接と補修の記事を見てから、条件の整理はこのページで進めてください。
まず確認すること
TIG溶接の技能を試すJIS Z 3821:2018は、板ならSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316Lの3.0mmと9.0mm、管なら呼び径100A(肉厚3.0mm)と150A(肉厚11.0mm)という、材質と板厚の組み合わせを固定して合否を判定します。[2] 資格を持っているかどうかより、この決め方のほうが発注側に効きます。TIG溶接ができるかどうかは、材質と板厚と継手が決まって初めて答えが出る問いだからです。[2] 弊社に相談いただくときも、先にこの3点をうかがいます。
納期が遅れやすいポイント
- 図面にTIG溶接とだけ書かれ、SUS304の板厚や継手形状、溶接姿勢が指定されていないと、足りない条件を各社が自社の得意なレンジで補って読むため、見積の前提が揃いません。[2]
- 溶接後に基準面の機械加工が必要な部品を、溶接と機械加工で別々の会社に分けると、溶接歪みをどちらの工程で吸収するかが決まらず、公差の責任範囲があいまいになります。[8]
- アルミ合金の筐体には交流TIGの設備が要るため、材質だけを伝えても、設備の有無が確認できるまで可否の回答が返ってきません。[1]
- 溶接部の検査をどこまで求めるかが決まっていないと、マクロ検査や曲げ試験の要否が後から追加になり、その分だけ納期が延びます。[3]
- ステンレス配管の裏波の酸化をどこまで許容するかが仕様書にないと、受入検査の判定基準を現場で決めることになります。[2]
Q. TIG溶接が図面に指定されるのは、どういう部品か?
A. 作業効率より、継手の外観と内部品質を落とせない部品です。[1] TIG溶接はタングステン電極がほとんど消耗しない非溶極式のアーク溶接で、シールドガスに不活性ガスを使うためアルゴン溶接と呼ばれることもあります。[1] 他の溶接法と比べると溶接速度では劣りますが、ビード外観が整いやすく欠陥を防ぎやすい、ヒュームやスラグが少ない、適正な環境ではスパッタが出ない、という特性が挙げられています。[1] 溶加棒を使わず母材同士を溶かすノンフィラ溶接と、溶加棒を足すウィズフィラ溶接を使い分けられるため、薄板から厚板の初層まで守備範囲が広がります。[1] 水素や電池、エネルギー機器の配管とタンクでSUS304やSUS316の薄肉部が多いのは、この守備範囲と要求がかみ合うためです。[2] 材質が変わると設備側の条件も変わります。母材がアルミニウムなら交流TIG、それ以外なら直流TIGを選ぶとされています。[1] アルミ合金は表面の酸化膜を溶接前に化学的または機械的に除去する必要があり、熱伝導率が高いぶん予熱や溶接速度で熱変形を抑える管理が要ります。[9] 材質を伝えないまま可否だけを聞くと相手ごとに答えが揃わないのは、この設備差と材料差が回答の前提になっているからです。
Q. 見積を頼む前に、どこまで決めておけばよいか?
A. 材質と板厚、継手の形と姿勢、溶加棒とガス、検査項目の4つです。[2] JIS Z 3821:2018は、板ならSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、管ならSUS304TP、SUS304LTP、SUS316TP、SUS316LTPを対象とし、板厚は3.0mmと9.0mm、管は呼び径100A(肉厚3.0mm)と150A(肉厚11.0mm)で試験します。[2] 手元の図面がこの範囲のどこに当たるかを見れば、相手の資格が自分の部品に届いているかを比べられます。[2] 溶加棒はYS308、YS308L、YS316、YS316L(またはTS308-RI1などの表記)、シールドガスはI1(Ar)に適合するものと定められ、フラックス入り材を使う場合を除きバックシールドが必要とされます。[2] 管は水平固定と鉛直固定の両方の姿勢で試験されるため、現場で管を回せるかどうかも先に決めておく条件になります。[2] 検査は、寸法検査、幾何公差検査、粗さ検査、硬度検査、非破壊検査に加えて、溶接部検査としてマクロ検査、曲げ試験、引張試験の系統があります。[3] このうちどれを求めるかで、受けられる会社の範囲が変わります。曲げ試験の判定は規格側にあり、3.0mmを超える割れで不合格、3.0mm以下の割れは合計7.0mmを超えると不合格、ブローホールと割れの合計が10個を超えると不合格です。[2]
Q. 弊社はTIG溶接の案件をどう引き受けるのか?
A. 溶接から溶接後の機械加工、検査までを一括で受けます。[6][7] 弊社の設備一覧は、BTA深穴加工機、ガンドリル、5軸マシニング、門型マシニングセンタ、6面フライス自動ライン、大型旋盤、研削盤で構成されます。[7] 事業内容としてもBTA深穴加工、ガンドリル、マシニング、旋盤、フライス、研削加工が並びます。[6] TIG溶接そのものの可否と条件は、材質と板厚、継手形状、要求される検査項目が決まってから回答します。[6] 工程が連なる部品ほど、依頼先が分かれると前後工程の条件が確定しないまま各社が見積ることになります。公開コラムに載せている典型工程では、SUS304の500×300×t1.5のカバーを、ファイバーレーザー切断(切断速度8,000mm/min、窒素アシスト)、バリ取り、プレスブレーキ曲げ(90°、R1.5)、TIG溶接仮付、電解研磨(Ra0.4)の順で組んでいます。[3] TIG溶接はこの中の一工程であり、前後の切断精度と研磨条件が決まらないと単独では見積れません。[3] 溶接後の機械加工は弊社の受け持ちです。溶接歪みは横収縮、縦収縮、縦曲り、角変形、回転変形、座屈変形の6種類に分かれ、削り代だけで一律に吸収できるとは限らないため、機械加工の前に歪み量をmm単位で実測し、応力除去焼鈍を入れる工程位置と図面の普通公差の等級を先に合わせます。[8] TIGを避けたほうがよい場合もあります。金型部品や精密部品の肉盛補修はTIG溶接で行うのが一般的ですが、母材に大きな影響を与えるため精密金型部品には応用しにくいと弊社の記事でも書いています。[4] STAVAXの補修条件は予熱250℃、層間温度350℃以下、後熱580℃×2hでHRC50±2を回復させるというもので、熱の入れ方まで仕様に含まれます。[5] ここまで熱を管理できない部品なら、レーザー溶接や材料側からの作り替えを含めて比べたほうが早い場合があります。[4]
図面で見ておきたい条件
- JIS Z 3821:2018の適用範囲は、SUS304などステンレス鋼の被覆アーク溶接、ティグ溶接、ミグ溶接、マグ溶接と組合せ溶接であり、全自動溶接は除かれています。ロボットによる自動TIG溶接ラインの実力は資格の有無だけでは判断できないため、その場合は検査記録のほうを見ます。[2]
- 同規格の曲げ試験では、3.0mmを超える割れがあれば不合格、3.0mm以下の割れは合計長さが7.0mmを超えると不合格、ブローホールと割れの合計数が10個を超えると不合格と定められています。受入検査の判定基準を決める材料として使えます。[2]
- TIG溶接ではフラックス入り材を使う場合を除きバックシールドが必要とされます。SUS304やSUS316の配管では裏面の酸化が内面品質に直結するため、図面に記載がなければ許容範囲を弊社から確認します。[2]
- 溶接後の歪みは横収縮、縦収縮、縦曲り、角変形、回転変形、座屈変形の6種類に分類され、機械加工の削り代だけで一律に吸収できるとは限りません。板厚38mmを超える圧力容器などでは溶接後熱処理が原則要求される場合があり、対象材料と板厚を先に確認します。[8]
- TIGによる肉盛補修は一般的な方法ですが、母材に大きな影響を与えるため精密金型部品には応用しにくい面があります。[4] STAVAXの補修では予熱250℃、層間温度350℃以下、後熱580℃×2hでHRC50±2を回復させる条件が示されており、TIGを選ぶなら熱の管理そのものが仕様の一部になります。[5]
相談前に知っておきたいこと
- TIG溶接の単価と納期は、材質と板厚、継手の形状と姿勢、溶接線の長さ、検査項目、数量が決まってから算出します。これらの条件が確定するまでの段階では金額と日数を確定しません。[6]
- 溶接後にどれだけ歪みが残るかは継手形状と溶接順序で変わるため、機械加工の削り代は歪み量をmm単位で実測してから決めます。実測前の段階で仕上げ後の寸法を確定することはできません。[8]
関連するものづくりトピックス
よくある質問
図面がまだ固まっていなくても相談できますか?+
TIG溶接だけを切り出して依頼できますか?+
アルミ合金の部品でも相談できますか?+
溶接する会社にJIS Z 3821の資格を求めるべきですか?+
溶接部の検査はどこまで依頼できますか?+
溶接後の機械加工まで一緒に依頼できますか?+
見積を早く出してもらうには何を送ればよいですか?+
裏波の酸化を抑えたい場合は、どう伝えればよいですか?+
肉盛補修もTIGで依頼できますか?+
水素や電池関連の装置部品でも相談できますか?+
あわせて読みたい情報
参考事例・文献
このページの情報は役に立ちましたか?